脆弱性は後から見つかる
今回の欠陥は、長年使われてきたPHPの内部にありました。2024年の監査で兆候が見つかり、2026年に実証されています。作った時点で安全だったことは、今も安全であることを意味しません。[1]
2026年10月21日に修正版が公開された、PHP本体の重大な脆弱性についてのレポートです。医療機関と、そのWebサイトを任されている担当者が、自院に関係があるかを判断し、やるべきことを確認するために作りました。
何が起きたのですか?
Webサイトを動かす基盤ソフト「PHP」本体に、ログインなしで遠隔からプログラムを実行されうる重大な欠陥が2件見つかり、10月21日23時に修正版が公開されました。公開前に情報が漏れ、攻撃の試行も観測されています。[1][12]
関係があるのは誰ですか?
インターネットに公開しているWebサイトやWebサービス(ホームページ、予約、問診、問い合わせフォームなど)のうち、PHPで動いているものです。ブログなどを投稿するためによく使われるWordPressはPHPで動きます。
関係がないのは?
PHPをWebサービスの基盤として使っていないものは関係ありません。院内のレセコン(例えばORCA)などはPHPで動いているものはないと思いますが、電子カルテなどは一部PHPを使っているものがありますので確認が必要です。
やること。自院のWebサイト、PHPを使った院内・院外のシステムを作った会社、運用している会社に「PHPを使っているか、修正版に更新済みか」を確認します。文例は04章にあります。医療機関が自分で更新できる構成はまれです。
PHPは、Webサーバーの中でプログラムを動かすための仕組みです。今回の欠陥は、そのPHP本体が、メモリ不足や異常終了の後始末を誤る問題です。Webサイトのプログラムが適切に書かれていても、下で動くPHPに欠陥があれば影響を受けます。[3][4]
成功すると、Webサーバーの実行権限で攻撃者のプログラムが動き、サイトの改ざんや、サイトが扱うデータの窃取につながります。メモリ内の秘密情報を読み出す経路も報告されています。ただし、これだけで自動的にOSの管理者権限まで得られる、という意味ではありません。[3][4][5]
「認証不要」というのは、IDやパスワードを持たない第三者でも、インターネット越しにそのサーバーへ到達できれば命令を実行させられる、という非常にやっかいな性質です。
ただし、「どんなサーバーにも一発で成功する」という意味ではなく、PHPのビルド・設定・動作方式が成立条件に関わります。公式評価でも攻撃の複雑さは「高」です。それでも公開前から攻撃は試みられており、更新を後回しにする根拠にはなりません。[3][4][12]
| PHP系列 | 今回の上流修正版 |
|---|---|
| 8.2 | 8.2.35 |
| 8.3 | 8.3.36 |
| 8.4 | 8.4.27 |
| 8.5 | 8.5.12 |
PHP公式の2026年10月21日リリース。[2]
研究者はPHP 5.4以降の古い版にも関連する問題が及ぶと報告しています。[5] PHP 8.1以前は通常サポートが終了していますが、今回は7.4・8.0・8.1向けの最小限の修正も案内されています。レンタルサーバ各社には、さらに古い版へ独自の修正を当てた例もあります(03章の表)。[2][20]
配布元が古い版番号のまま、修正だけを取り込むことがあります(バックポート)。「8.4.26」と表示されていても修正済みの場合があり、逆に表示が新しくても確認は必要です。確認するのは版番号ではなく、両CVEの修正を含んでいるかです。[2]
2024年の外部監査で兆候はあったものの実証されておらず、修正は停滞していたとPHP Foundationは説明しています。[1]
今回の攻撃経路は、インターネットから届くリクエストでPHPを動かすWebサーバーが前提です。医療機関が持つシステムを、この前提に当てはまるかどうかで分けます。
| システム | 判断 | 理由と確認先 |
|---|---|---|
| 自院のホームページ(WordPressなどのCMS) | 対象になりうる | WordPressはPHPで動きます。制作会社・運用会社・レンタルサーバの告知で、PHPの使用と修正版への更新を確認します。 |
| 予約・問診・問い合わせフォームなどのWebサービス | 提供元に確認 | サービスの内部でPHPが使われているかは、利用者側では分かりません。提供元の告知を確認します。IPAも同じ注意を促しています。[8] |
| レセコン ORCA WebORCAクラウド・WebORCAオンプレ・WebQKAN・日特クラウド | 対象外 | ORCAサポートセンターが10月22日、これらのサービスはシステム内部でPHPを使用しておらず本脆弱性の影響はない、医療機関・ベンダーでの特別な対応は不要、と案内しています。[22] |
| オンライン資格確認 | 対象外 | 閉域網(NGNなど)で運用され、インターネットに公開されたWebサイトではありません。今回の前提に当てはまりません。 |
| 電子カルテ、その他の院内システム | 提供元に確認 | 院内ネットワークだけで動くものはインターネットからの攻撃経路には当てはまりませんが、PHPを使っているなら保守ベンダーに確認します。クラウド型やWeb型は提供元の告知で確認します。 |
表の「対象外」は、今回の2件の脆弱性の攻撃経路に照らした判断です。各システムのセキュリティ全般を保証するものではありません。
医療機関のホームページは共用レンタルサーバで運用されていることが多く、その場合PHPの更新は利用者(ユーザー)ではなく、事業者側の作業です。契約中のプランが対象かどうかは、各社の告知本文と契約内容で確認してください。以下に、当社で確認できた範囲の要約を示します。
| 事業者 | 告知で確認できること(10月22日時点) |
|---|---|
| さくらインターネット | 公開に先立ち21日22時30分から予防的な緊急メンテナンス。レンタルサーバのPHP(同社が提供する旧版を含む)に修正を適用。22日14時時点で、本脆弱性を悪用した被害は報告されていないと説明。[18] |
| エックスサーバー | 21日16時から自社の公式サイト・管理画面等を一時停止し、22日から順次再開(契約者のWebサイト表示やメールには影響なしと説明)。PHP 8.2〜8.5の修正を対象サーバへ適用、旧版の修正は準備中。不正アクセスの発生に伴うものではないと説明。[19] |
| ロリポップ!(GMOペパボ) | 8.2以降は公式修正、7.4〜8.1は上流の最小修正、それ以前は同社独自の修正を適用し、22日13時頃に復旧。全バージョンで session.upload_progress を無効化。攻撃の試行は観測したが、不正アクセス・情報漏えいは確認されていないと説明。[20] |
| KAGOYA | レンタルサーバープランは同社が更新中(22日中の完了見込み)。マネージド専用・共用・WordPress専用は恒久対策の方針を調整中で、暫定的に公開停止やアクセス制限を案内。[21] |
各社の告知を10月22日に読んだ範囲の要約です。対応は進行中のため、最新の状態は各社の告知で確認してください。
ホームページ、予約、問診、問い合わせフォーム。URLごとに1行。
制作会社、運用会社、レンタルサーバ、サービス提供元。分からなければ契約書か請求書で。
PHPを使っているか。使っているなら修正版に更新済みか。
そのまま送れる形にしてあります。CVE番号と修正版の基準を添えると、先方の確認が早く進みます。
当院のWebサイト(URL: )について、PHPの重大脆弱性
(CVE-2026-109618、CVE-2026-109619)への対応状況をお知らせください。
1. このサイトでPHPを使用していますか。
2. 使用している場合、両CVEの修正を含む版(8.2.35/8.3.36/8.4.27/8.5.12、
または同等の修正を取り込んだ版)へ更新済みですか。更新日時も教えてください。
3. 未更新の場合、更新予定日と、それまでの暫定対策を教えてください。更新の見込みが立たないサイトは、一時的にメンテナンス画面へ切り替える、アクセスを制限する、という選択肢があります。EUの共同声明も、KAGOYAの案内も、同じ助言をしています。[7][21] 不審な改ざんや挙動があれば、ログを保全して運用会社と相談します。
技術担当者向け:設定変更(メモリ上限の解除やアップロード進捗機能の無効化など)だけで「対策完了」にしないでください。公式も、これらは一部の経路しか塞がないと説明しています。Apache+mod_phpでは認証前に成立する経路が実証され、PHP-FPMでも別の経路が検証されているため、「Nginxだから対象外」とは判断できません。[3][4]
10月21日の夜から、国内で複数のサービスが止まりました。公式告知を読むと、公開前に露出を減らすために止めた例と、公開に合わせて更新・確認のために止めた例があります。停止の事実だけをもって、攻撃された、情報が漏れた、と早合点しないでください。
| 主体・開始時刻 | 対象・目的 | 告知で確認できること |
|---|---|---|
| 大阪府民共済 10月21日 19:00〜 | 新規加入申込、マイページ、各種受付等を一時停止。修正適用と安全確認。 | 不正アクセス・情報漏えいは確認されていないと明記。22日に、停止した全サービスの再開を告知(時刻の記載なし)。[13][14] |
| あすけん 10月21日 22:50頃〜 | アプリ、Web、法人向け機能等。修正版公開に合わせた予防的メンテナンス。 | 不正アクセスや情報漏えいによる停止ではないと説明。22日9時25分に再開し、被害がないことを確認したと告知。[15][16] |
| 大阪府 10月21日 23:40〜 | ページID検索、報道発表資料検索、指定医師検索等の一部機能を停止し、パッチ適用等を実施。 | 当該事案による不正アクセス・情報漏えいは確認されていないと説明。本資料の確認時点で再開の告知は未確認。[17] |
当時の停止判断と、確認できた再開告知を記録しています(10月22日時点)。現在の稼働状況一覧ではありません。
予防的な停止は、EUの共同声明が勧める危険低減策の一つです。自院のサイトで同じ判断をするかは、運用会社と相談して決めるようにしてください。[7]
SNSでは「人災」という言葉で、修正判断の停滞や、公開前の情報流出、合意を破った先行公開といった開示手順の混乱が強調されました。PHP Foundation自身も、修正が停滞したのは意思決定と資源不足による構造的な失敗だったと認めています。その側面は確かにあります。[1]
しかし、Webサイトやサービスを公開している側にとっての教訓は、そこにはありません。
公開したものは、公開した後も、運用中に継続してセキュリティの確認を行う必要がある、ということです。
今回の欠陥は、長年使われてきたPHPの内部にありました。2024年の監査で兆候が見つかり、2026年に実証されています。作った時点で安全だったことは、今も安全であることを意味しません。[1]
WordPressやプラグインを最新にしていても、その下で動くPHPやOSは別の誰かが更新します。「誰が更新するか」が決まっていないサイトは、今回のような時に宙に浮きます。
IPA・JPCERT/CCの注意喚起、レンタルサーバや提供元の告知を、誰が読み、誰が判断するかを決めておきます。今回は公開当日の早朝に事前告知が出ていました。[2][8][9][10]
更新できない時に、サイトを一時停止する判断を誰がするか。今回、国内の運営者は公開前に止める判断をしています。[13][15][17]
発見の速度も変わっています。研究者は、脆弱性の発見や攻撃手法の調整にAIを使ったと説明しています。[5]「理屈では危ないが、実際の攻撃は難しい」という状態が長く続く前提は、もう通用しません。AIが進化し続ける今後、時間の猶予をあてにしたセキュリティ対策はすべて意味がなくなる、ぐらいの認識で臨む必要があります。公開した後の運用に、確認の習慣を組み込むこと。それが、今回の事案から学ぶべきことだと考えます。
当社の公開サイトは、PHPを使わない静的なHTMLを配信しており、本件の対象ではありません。また、当社が医療機関に提供しているWebサービスにも、PHPは使用していません。
一方、各医療機関のホームページや予約サイトは、制作会社や運用サービス会社がそれぞれ運用しており、当社がその構成を把握する立場にはありません。自院のWebサイトでPHPが使われているかどうか、使われている場合に修正版へ更新済みかどうかは、Web制作を依頼した会社や、運用サービスを提供している会社にお問い合わせのうえ確認してください。問い合わせの際は、04章の文例のように、修正版の基準と両CVEの番号を添えると、話が早く進みます。
当社保守のお客様は、問い合わせ先が分からない場合や回答の読み方に迷う場合、お問い合わせフォームからご相談ください。保守契約のない医療機関の皆さまからの個別のお問い合わせは受けかねますが、公開できる情報は本資料やお知らせで発信していきますので、そちらを参考にしてください。
本文は、以下の原資料と公式告知を2026年10月22日から23日に確認して作成しました。発表主体自身の説明は、独立した第三者による事実認定とは区別しています。リンク先が後日更新されると、本資料の記載と差が出る場合があります。
本資料は、SNSで広まった論評をきっかけに調査を始め、原資料で照合した解説資料です。初版(10月22日)は論評の検証を含む構成でしたが、10月23日に、医療機関とWeb担当者が判断するための資料として目的を絞り、全面的に書き直しました。作成には生成AIを調査・下書き・出典照合に使用し、公開前の内容確認は当社が行いました。攻撃の再現や第三者システムへの検証は実施していません。