医療DXとの正しい向き合い方
“やってられない”現場負担を、どう整理し、どう備えるか
株式会社ジェイ・メディック 代表取締役 酒井 陽一郎
会場:じばさんびる 501(姫路市南駅前町)/Zoom 主催:兵庫県保険医協会 姫路・西播支部
立場の違う者から見た景色を、隠さずにお話しします。
- IT の会社を経営しています。医療のことは、先生方が専門です。
- 事前アンケートにあった言葉——「ソフト会社が儲かる仕組み。保守料が高すぎる」講師は、その側の人間です。
- 組織の話も、製品の話もしません。先生お一人お一人の損得だけを話します。
出典:姫路・西播支部 事前アンケート(協会 Google フォーム・2026年8月20日〜9月1日・回答14件)自由記述より
先生方のお声で、今日の構成を組みました。
コントロールできないこと
薬の供給・物価・点数の決め方
協会活動が効くこと
報告様式・期限・掲示ルール
自院で判断すること ← 今日はここだけ
DXの何を・いつ・どこまで/算定するか・しないか
出典:姫路・西播支部 事前アンケート「やってられない」と感じる事項(複数回答・n=12・2026年8月20日〜9月1日)。匿名集計。分類は集計時の区分による。
今日お話しするテーマは、3つです。
国策DXは、
物差しを持って値踏みするもの。
こわがらなくてよい。でも、様子見でもない。
物差しは4つ——後ほどお渡しします。まず、物差しを持つとはどういうことか、から。
国策DXは、正式名称の「等」の一文字の中にあります。
オンライン資格確認等システム
- オンライン資格確認は、令和5年4月から原則義務(療担規則 第3条)。
- 義務化対象の 97.8% が導入済み。経過措置の届出は 1,229施設。2026年6月28日時点・厚生労働省。紙レセプト請求の医療機関(2.2%)は義務化の対象外。
- 資格確認そのものは実利。国策は、その先の「等」にあります。
全体像は複数の仕組みの集まり——今日は、この中の2つを拡大鏡で見ます。
オンライン資格確認等システム土台
資格確認、薬剤情報等医療情報の閲覧。原則義務(令和5年4月〜)
電子処方箋後半③
処方・調剤の情報を、医療機関と薬局の間で共有する
電子カルテ情報共有サービス後半④
3文書・6情報を、医療機関等の間で共有する
そのほかの仕組み
覚えなくて結構です
出典:厚生労働省「医療DXについて」。全体像の図は上記リンクから開けます(クリック)。
レセコンを入れても——
印刷、編綴、箱詰め、搬出。
月末の残業。
手書きのレセプトに、
戻れますか?
DX=Digital Transformation。IT化は目的ではなく、手段です。
X は Cross(交差・変換)
Transformation を X と略す。Xmas(X=Christ)と同じ理屈。
提唱は 2004年
エリック・ストルターマン(スウェーデンの研究者)。20年前の概念。
IT を手段にして、より良い未来へ
導入が目的ではない。変化した後の姿が目的。
先生方は、本物のDXを
もう経験しています。
編綴された紙のレセプトという物体が、消滅した。
だから国策DXも、同じ目で見ることができます。
物差しは、4つ。
義務か、任意か
法令上の義務なのか、目標・任意なのか
補助と期限
いくら出るのか、いつまでか
運用コストは誰が背負うか・剥がせるか
改修費・保守費が毎年いくら/誰が・どの入力を・いつ/職員教育
データと責任はどこへ
情報の行き先と、責任の所在・手順
止まらない、終わらない。でも、物差しがあれば、こわがらなくてよい。
2026/6/28 時点・厚労省
オン資導入施設ベース。2026/8/30 厚労省公開リストを集計
2026/6/24 時点・厚労省
厚労省 医療等情報利活用WG 資料(2026/6/26)
取れるか、ではなく、見合うか。
令和6・8年度のベースアップ評価料で、景色が変わりました。——ベアで、一緒に確かめましょう。
+3.09% の 9割超は補填——診療行為の評価は +0.25、1割弱です。
出典:令和8年度診療報酬改定 大臣折衝事項(令和7年12月24日・厚労省)。本体 +3.09% は令和8・9年度の2年度平均。賃上げ +1.70 は特例的対応 +0.28 を、物価対応 +0.76 は特別項目 +0.62 を内数として含む。令和9年度予算編成で「加減算を含め」再調整(同事項)、医療機関の経営状況の臨時調査が進行中(中医協 2026/4/8 了承)。
ベースアップ評価料(I)は、令和9年6月に点数が上がることまで告示に書かれています。
| 外来・在宅ベースアップ評価料(I) | 令和8年6月〜新規届出 | 令和8年6月〜継続(R8.3.31 時点で届出等) | 令和9年6月〜新規 | 令和9年6月〜継続 |
|---|---|---|---|---|
| 初診時 | 17点 | 23点 | 34点 | 40点 |
| 再診時等 | 4点 | 6点 | 8点 | 10点 |
- 対象は「当該保険医療機関において勤務する職員」の賃金改善(職種の限定なし)。
- 評価料(II)は区分1〜24(初診 8点×区分/再診 1点×区分)。
出典:令和8年厚生労働省告示(医科・ベースアップ評価料 O001/O002)抜粋。令和9年6月以降の点数は注6・注7(所定点数の 200/100)による。
簡素化されたのは入口だけ——出口の煩雑さは、国自身が事務連絡で認めた形です。
届出
施設基準(6月に全機関が再届出)
▶算定
初診・再診等に上乗せ
▶賃上げ
職員へ配分
▶中間報告
6・7月分の実績
▶8月 実績報告
毎年。次回は令和9年8月
- 8月19日 事務連絡:「届出と請求内容に疑義」→ 6・7月診療分は審査支払機関で特段の対応。
- 9月1日 事務連絡:提出期限は 8月31日「であった」。改定後初回で疑義が多く、間に合わない機関があった → 超過分は可及的速やかに提出。近畿厚生局は「提出期限が延長されました」と表現(2026/9/4)。「延長」ではなく、締切は過ぎたが遅延提出を受け付けている、が正確。
- 「改定に伴う施設基準の届出直し」も同じ構造——点数の顔をした報告端末。
出典:厚労省保険局医療課 事務連絡(令和8年8月19日/9月1日)、手引き 令和8年7月版、近畿厚生局ページ。
ベアの摩擦は、4か所で起きます。
患者摩擦
窓口で説明する側は、医院
職員摩擦
配分と説明は、院長の仕事
労務摩擦
扶養の壁
経営摩擦
増収、減益
届け出ていない医院が4割——怠慢ではなく、合理的な経営判断です。
出典:日本医師会 定例記者会見資料(令和8年4月8日)「ベースアップ評価料の届出状況」(厚生局ホームページより日本医師会にて集計)。有床診療所 51.8%→70.0%、病院 90.4%→93.9%。
書いてあることに嘘はない。書いていない部分が、サービスとして商品になります。
書いてあること
「賃上げの原資が、手厚く配分された」——嘘は一つもない。
書いていないこと
「医院には残らない」「毎年8月の報告がある」——ここが代行業務の商品になる。
ベアは「見合うか」で判断する——算定しない、も経営判断です。
- 増収と増益は、別物。見るのは「算定回数」であって、患者数ではありません。
- 先生の医院の数字で、その場で試算できます(無料・入力データの送信なし)。
- 帰ったら事務職員に一言——「月別の初診・再診の算定回数、出しておいて」。
電子処方箋は、義務ではない。
段階で入れられる。
この4つを、仕組みから順に確かめます。
処方情報を管理サービスに登録し、薬局が調剤結果を返す——双方向の仕組みです。
医療機関
処方情報を電子処方箋管理サービスに登録。発行には医師の電子署名(HPKI 等)
▶患者
マイナ保険証または引換番号で薬局へ
▶薬局
処方情報を取得・調剤 → 調剤結果を登録
▶医療機関・薬局
過去の処方・調剤情報を参照。重複投薬・併用禁忌のチェック
医科診療所は、1年で 19% → 31%。様子見していた医院が、動き始めています。
全診療所ベースでは約25%
出典:厚労省「電子処方箋利用 参加医療機関・薬局リスト」2026年8月30日版を集計(分母はオンライン資格確認導入施設数・2026年6月28日時点・厚労省)。1年前の値 19.0% は 2025年5月25日時点(内閣官房 改善対話資料)。
「電子処方箋の義務化は、いつからですか?」事前アンケートより
また「電子カルテ」という言葉に惑わされないでください。現状、言葉だけが独り歩きしています。
- 改正医療法(令和7年12月成立):「政府は、令和12年12月31日までに、電子カルテの普及率が約100%となることを達成するよう……実現しなければならない」
- 主語は政府。政府の達成義務であって、医療機関への義務・罰則ではない。
- 対象は電子カルテ(※)の普及率。電子処方箋の義務化条文ではない。——「電子カルテ『義務化』」(4票)への答えも同じ。
出典:第122回社会保障審議会医療部会 資料4(令和7年12月8日)/医療DX令和ビジョン2030 厚労省推進チーム(令和7年7月1日)。
第一号患者になってみた——仕組みの設計と現場の間に、溝がありました。
- 用法コメントとして入力した内容が、薬局には「空欄」で届いた。
- 医療機関と薬局でやり取りを重ね、最後は口頭で解決。
変わるのは責任の「所在」ではなく、責任を果たす「手順」です。
疑義照会は従来どおり
責任の所在は変わらない
電子署名=押印の代替
署名の主体は医師のまま
重複投薬チェックは「見られる」だけ
判断は医師
用法コメントは薬局に届かない溝
前のスライドの正体。手順で埋める
代行入力・院内処方の扱いは、講演で補足。
今年度は補助がある——導入期限は令和8年9月まで(医療機関も)。10月以降は検討中です。
- 令和8年度・医療情報化支援基金。補助対象の導入期限は令和8年9月まで——医療機関・薬局とも(厚労省医薬局 事務連絡 令和7年10月2日/説明会資料 令和8年7月14日)。薬局はこれが最後の延長。
- 医療機関の10月以降は「改めて検討」=未決定(電子カルテ/共有サービス普及計画を踏まえて)。申請はポータルから、証拠書類が揃ってから一括。申請期限はポータルの案内で各自確認。
出典:厚労省「電子処方箋 令和8年度 導入補助」資料(医療情報化支援基金)、厚労省医薬局総務課 事務連絡(令和7年10月2日)、電子処方箋説明会資料(令和8年7月14日)p.37(2026/9/6 原本確認)。
4つの軸で値踏みし、段階で入れる。
物差し(4つの軸)
- ① 任意(義務ではない)
- ② 補助 27.1万円上限・期限は要確認
- ③ 運用コスト:レセコン/電子カルテの対応費と保守、用法マスタの事前点検、受付の説明時間、引換番号の渡し方
- ④ 責任の手順(前々スライド)
段階
- (1) 薬剤情報の閲覧——オン資で既にできる
- (2) 紙処方箋+処方情報の登録
- (3) 電子処方箋の発行(電子署名)
- (4) 院内処方への対応
共有サービスは、努力義務すらない。
二択でもない。
何が共有されるのか、から順に。
共有されるのは3文書と6情報——「情報を共有する」が、国の基本姿勢です。
3文書
- 診療情報提供書
- 退院時サマリー
- 健診結果報告書
6情報
- 傷病名/アレルギー/感染症/薬剤禁忌
- 検査(救急時に有用な項目+生活習慣病関連)
- 処方
出典:厚労省 第33回医療等情報利活用WG 資料2(2026年6月26日)、厚労省 サービス概要案内 v2.1(2026年7月21日更新)。
いまは「始まる直前」——10地域31医療機関で運用中、令和8年度冬頃に全国運用へ。
令和7年2月〜
モデル事業を順次開始
▶2026年6月24日 時点
10地域・31医療機関で運用開始済み
▶2026年10月頃〜
技術解説書(検証用)を公開・再検証
▶令和8年度 冬頃
全国的な運用開始(厚労省)
出典:厚労省 第33回医療等情報利活用WG 資料2(2026年6月26日)、厚労省 電子カルテ情報共有サービスページ(2026年7月21日更新)。
導入版は、共有サービスへの「入力口」——紙カルテのまま、つなぐ選択肢が用意されつつあります。
- 導入版=「紙カルテや現行の電子カルテの業務はそのままに、国の医療DXに対応」(厚労省リーフレット)。2026年度中の完成を目指す。
- 基本要件 第1.0版:2026年3月31日 公表 → 認証制度要綱:2026年9月 公開予定(9月4日時点 未確認)→ 認証製品:2027年4月 提供開始目標。
出典:厚労省 第33回医療等情報利活用WG 資料3(2026年6月26日)、標準型電子カルテ リーフレット、標準仕様ページ(2026/9/4 確認)。
点数の顔をした報告端末、その最新型——ここでも、取れるか、ではなく、見合うか。
令和8年度改定で(6月1日 適用)
医療DX推進体制整備加算・医療情報取得加算を廃止 → 電子的診療情報連携体制整備加算を新設。旧加算の届出があっても改めて届出が必要
点数(厚労省告示第69号)
初診:加算1=15点/加算2=9点/加算3=4点(月1回)
再診:2点(月1回)。届出すると明細書発行体制等加算(再診ごと1点)は算定不可
- 加算3=オンライン資格確認・マイナ保険証利用率 30% 以上(レセプト件数ベース・算定月の3月前)・院内掲示+ウェブ掲載・明細書無償交付 など8項目
- 加算2=8項目+「電子処方箋/条件付き電子カルテ/共有サービス活用 または 地域医療ネットワーク」のどれか1つ
- 加算1=全部
出典:令和8年厚労省告示第69号(医科点数表 A000 注16・A001 注19)・第70号、保医発0305第7号 別添1 第1の8、疑義解釈資料その1 問3(2026/9/6 原本確認)。
4つの軸でしっかりと値踏みし、見極める(聞く・待つ・想定する)。
物差し(4つの軸)
- ① 努力義務すらない(ただし加算1・2を届け出ると「全国運用後は速やかに導入に努める」が付く)
- ② 補助は病院(20床以上)のみ。診療所向けは現時点なし。期限=令和8年度 冬頃 全国運用/2027年4月 認証製品(目標)
- ③ 運用コスト:ベンダーの改修費・保守費が毎年いくら/6情報の入力を誰が・いつ/職員教育
- ④ データの行き先:3文書・6情報に限る。同意の仕組みの上で
いま、すること
- 聞く:ベンダーに「共有サービス対応の時期と費用」。電子処方箋対応済みなら加算2の要件は満たしうる(共有サービスを待たなくてよい)
- 待つ:紙カルテの医院は、導入版の続報を待つ(急がない)
- 運用フローを想定する:患者同意の流れを、事務職員と一度に確認する
電子カルテを買うかどうか、ではなく、
共有基盤にどうつながるか。
目的に賛成することと、今すぐ同じ方法で導入することは、同義ではありません。
止まらない、終わらない。でも、こわがらなくてよい——値踏みすればよい。
完璧な対応を目指さず、ひとつ手放す——院長の時間も、損益計算に入れます。
報告事務に使う
中間報告・実績報告・届出直し・掲示の更新
診療と判断に使う
患者と向き合う時間。「取るか、取らないか」を決める時間
「酒井さん、
月末で閉院しますわ」
諦めるべきは、診療所の継続ではありません。
手放すもの①
国に期待すること
手放すもの②
全部に完璧に応えること
- 制度のDXは、4つの軸で値踏みする。
- 先生ご自身のDXは、先生とスタッフと患者さんが笑顔になっているか、それだけで測る。
- 明日の朝、事務職員に一言だけ。患者動態の集計手順の確認だけしておいて
ご清聴ありがとうございました
株式会社ジェイ・メディック 代表取締役 酒井 陽一郎
AI も、物差しは同じ——③運用コストと④データと責任で値踏みします。
- 入れる情報で、道具を選ぶ。患者情報を入れるのか、入れないのか。
- ③ 誰が・何を・いつ入力するのか。職員教育は。剥がせるか。
- ④ 入れた情報はどこへ行くのか。責任は誰が、どの手順で果たすのか。
事前アンケート「AIを診療所業務にどう使えるか」(3票)への先回り。
制度が複雑になるほど、複雑さを吸収する側に市場ができます。
- 軸③「運用コストは誰が背負うか・剥がせるか」で見る。
- 改修費・保守費が毎年いくらか。何に対する費用か。剥がせる契約か。
- 「何を買わなくていいか」を、先に決める。
事前アンケート「保守契約料やソフト更新の費用が高すぎる」への先回り。
ウェブ掲載は原則義務——ただし、自ら管理するホームページを持たない医院は対象外です。
- 令和6年度改定でウェブサイト掲載を義務化(療担規則)。経過措置は令和7年5月31日で終了。
- 令和8年6月1日適用の通知(保医発0327第6号・令和8年3月27日)で、院内掲示+ウェブ掲載の 5事項:①入院基本料 ②DPC ③地方厚生局長への届出事項(各種施設基準)④明細書発行状況 ⑤保険外負担。
- 「自ら管理するホームページ等を有しない保険医療機関については、この限りではない」(同通知)。
出典:厚労省 保医発0327第6号(令和8年3月27日)。経過措置の終了日は保団連 2025年5月2日記事による。事前アンケート「院内掲示・HP掲載義務」(8票)への先回り。